いい歳こいて

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普段は朝9時過ぎに家を出発し事務所に向かうのだが、前日の仕事が立て込んだため、いつもより2時間も早く家を出なければいけない。 朝から子供が鼻の穴に指を突っ込んできたおかげで、窒息寸前でようやく目をさますことができた。 この時間に起きると上の子の登校時間とほぼ同じなので、朝からアットホームな気分を満喫できるので、嫌いではない。 朝食はいつものプロテインシェイク、子供達と同じように起き抜けからトーストにジャムを塗りたくるなど、 これから7人の敵に会いに行く大人の男のすることではないと考えるからだ。
新聞に目を通すとグアテマラで観光客が現地の民衆に袋叩きにされ殺されたという事件を報じる。運転手に至ってはその場で死体を焼かれたという。 世の中何かがおかしい、世界中の人々は終末論に開放され、まるで張りつめた弓が行くあてを失い、無差別にはけ口を探しているようにも思える。 おかしいのはグアテマラの民衆だけではない、最も目立つのは連日ネタに尽きない警察の不祥事である。 特にここK県警は覚醒剤、婦女暴行など、記者にとってはネタの宝庫で、ニュース嫌いの俺の耳も否応なく反応してしまう様になった。 このダメ人間達に給料を払っているのは他でもない、俺達一般市民であるという事実。 しかしそんな虚しくはかない怒りも、当面の生活には支障がなく、いつもの様に自分の生活では山積みの作業をこなしているウチに忘れてしまうものだ。
子供はとうに学校に行ってしまったが、俺にとってはいつもより早い出勤に「早起きは三文の徳」でもあればと、すがすがしくスクーターのセンタースタンドを蹴った。 家の前の近所の住民しか通ることのない生活道路を抜け、地元付近では代表的な裏道ともいえる小さな商店街を走る。 ここでは疾風のごとくクルマとクルマの隙間をくぐり抜け、さわやかな朝の空気を肌で感じる。 やはり2時間も早いと、走っているクルマもいつも同じ場所にとめてある酒屋のトラックもなく、どこか新鮮な気分にさせられる。 商店街を抜けると国道を横切る信号機があり、ここでスクーターは先頭に抜け出る。信号待ちの間、今日の仕事のスケジュールを組み立てる。 「うん、この時間なら午前中には予定の作業を終え、約束通り客先にFAXを送ることが出来そうだ、 その後は写真をスキャニングに出して、その足で銀行・・・・・」信号待ちの間はハードな一日のシュミレーションするには絶好のインターバルである。

青になった。国道と斜めに合流し、斜め後に並んだタクシーに先を譲り、慎重に右車線に身体を傾ける。対向車がいないことを確かめると右折して橋にさしかかった。 ここで、またいつもと違った光景に気がついた。警察官が立っているのだ。「なにかあったのだろうか・・・」今朝思いを巡らせたさまざまな事件も、 ふと脳裏をよぎったがすぐに消えた。一人目の警察官は遠くに立っている別の警察官に何か指示を出している。 ただの交通整理でもないことはすぐに分かったが、なぜかその指示を受けた警察官が俺に向かって停止を指示したので、 「どうしたんですか?」と俺もスクーターから足を降ろした。 話しかけたのは、小柄で童顔の、水色の制服がどうにも似合わない女性白バイ隊員のようである。

以下会話

警官「今、右折しましたね」
俺 「はい」(?)
警官「右折しちゃダメなんですぅ」
俺 「・・・・」(お、結構可愛いかも)
警官「違反ですから、免許証だしてください」
俺 「え?」(??????)
警官「・・・・」
俺 「え〜!!!!!!!?」(ムンクの叫び)

沈黙

警官「そこの橋の信号は右折禁止なんですよ」
俺 「嘘だ、毎日曲がってるよ」(うわ〜、余計なこといっちまった)
警官「それは違反です」
俺 「何時から!」(あれ、みんな毎日曲がってるよなぁ・・・)
警官「ずっと前からですよ、免許見せて!」
俺 「なんで!」(おかしい、おかしすぎる)
警官「ここは、朝7時〜9時までは右折禁止なんです」
俺 「なんで!」(世の中がおかしい方向にすすんでる)
警官「学校が近いから危ないでしょ」
俺 「なんで!」(悔しいが納得)

沈黙(警官は青キップに記入中)

納得はしたのだが、どうしてもこのまま切符を切られるのが悔しくて仕方がない。 いままで、晴れやかな朝のひとときが嘘のように、どん底に突き落とされ気が動転していたのかも知れない俺は 次の瞬間、信じられない言葉をはいた。
(昭和42年生まれ、32歳のいい大人) 

俺 「おう、お前らK県警か?」(うわ〜、なにいってんだ)
警官「そうです」
俺 「よく人のミスにケチ付ける気になるなあ〜あ、お?」(もう止まらないかも)
警官「・・・・」
俺 「警察はいいとして、K県警だけには責められたくない」(滅茶苦茶な言い分)
警官「それとこれとは関係ないですから」
俺 「そんなに危険だったら、曲がる前に指示出せ!ボケッ」(もう嫌、こんな性格)
警官「全部の信号に立ってる訳にはいきませんからねぇ」
俺 「信号越えたとこに立ってたら一緒じゃねぇか」(うわぁ、舌が巻き舌になってきた)
警官「・・・・」
俺 「だまってんじゃねぇよ!こんなとこ突っ立ってるくらいなら駐禁取りに行ってこい!」(なに命令してんだ)
警官「駐車禁止だって取り締まってますよ」
俺 「嘘だ、見逃してんじゃねぇの?金握らされてよ〜」(もうノリノリだ〜)
警官「そんなことしませんよ」
俺 「おお、良く言った、じゃ見つけたら電話するからよ、名前教えろよ」(絶対電話かけてやる)
警官「ええ、ここに名前書いてありますから」青キップをさす
俺 「だいたい人の名前を聞くなら、自分から名乗れよ」(決まった。泉谷しげるみたい・・・)
警官「はい、じゃあ点数は2点で、反則金は5千円ですから8日までに」
俺 「時間ねぇから払えないかも」(え、5千円でいいの、ホッ。)
警官「まだ一週間ありますよ」
俺 「連休中は金融機関休みだろ、二日しかねえってことだよ!」(勝った)
警官「もし無理でしたら、もう一度・・・云々」
俺 「・・・・・」(負けた)
警官「じゃ気を付けて・・・」
俺 「覚えてろよ」(イヤ〜ン、忘れてぇ)

ブロロロロ・・・・・・・・

俺(独り言) 「世の中なにかおかしい」(お前が一番おかしい)

マックに電源を入れると、いつものようにBBSに書き込みがある。しかしなにもやる気が起きない。 ふと気がつくとクライアントとの約束の時間が刻一刻と迫っている。焦って仕事に向かおうとするが、 こういうときはなにをやってもはかどらないもので、それが余計に苛立ちをまくし立てる。 午前中にやるべき仕事は全て材料が揃っており、言い訳も出来ない状況。とにかくやらねば。 仕事をしながらも、苛立ちは納まることはない。なににたいして怒っているのか自分でも分からないでいるのだ。 そもそも、なんであそこは右折禁止なのか? そもそも、なんでその時間帯だけなのか?  そもそも、なんで俺はいつもより2時間も早く家を出なければいけなかったのか、そもそも、なんで前日の仕事が遅れてしまったのか、そもそも・・・・・。
いや違う、この苛立ちは警官に向けるべきなのか? K県警はこんなちっぽけなホームページにまでネタを提供してくれるというのか?  そうでもない。おそらく32歳にもなって、いまだに気持ちを抑える事の出来ない自分に対して情けなく、 だれか知ってる人に見られていたら、それはそれはみっともない醜態だったに違いない。あれじゃダダッ子である。
あぁ恥ずかしい。

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このページは、ISが2000年5月 2日 10:51に書いたブログ記事です。

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