サッカーのワールドカップ予選リーグ2戦目の対ロシア戦。待ち合わせの新横浜駅に到着するとおびただしい数の警官とガーディアンエンジェルス達、そして「チケット売って下さい」のボードを抱えた人々の殺気にも似た威圧感の中会場へ向かう。お祭り騒ぎの会場周辺は日本代表のユニフォームカラーである青一色の大行列をなし、実はそれほどサッカーが好きでもない僕にとってもだんだんと気分が盛り上がっていくのを抑えられなかった。
試合開始前からすでに沸騰寸前の国際競技場内は6万6千人あまりをすっぽりと飲み込み、初対面の人同士の連帯感はいつしかウェーブとなりニッポンコールとなる。会場中から注ぐフラッシュの嵐とともに試合がスタートした。
のっけからヒートアップした観客席も徐々に落ち着き、シートに腰を下ろしての観戦も出来るようになった。テレビで見なれた僕にとっては情況を把握するためのアナウンスや解説が無いのが妙に物足りなく、細かいプレーの流れなどはスローモーションのない客席からでは、ほとんど見ることができない。それでも慣れてくると現場の雰囲気を楽しむようになり、相手ゴール付近で放たれる強い球筋や味方ゴールを守る楢崎のセービングに一喜一憂し、時に相手のプレーや審判の判定にブーイングでプレッシャーをかけた。
ハーフタイムの後、歓喜の瞬間は突然やってきた。前半からキレの良い動きで惜しいプレーを連発していた稲本の動きを目で追っていた時、どこからともなくゴール前でボールを受けたと思ったら相手ゴールへ流し込んだ。一瞬の出来事に目を疑いながらも会場の空気にのまれ近くの席の人々と抱き合って喜んでいた。(実はしばらくして巨大スクリーンに映った稲本の笑顔を見てようやく事態を把握したというのがホントのところだったりする)
ここから先はひたすら早く試合が終わることを望んだ。僕らの席は日本ベンチの真裏に位置し、トルシエ監督の動きも手に取るように見えていた。稲本のゴールの少し後にゴール裏でアップをしていた選手達の中からベンチに呼ばれた選手を見て周辺の席でどよめきがおこった。中山だった。
中山は歳が同じということもあり個人的には親近感を感じている選手だが、今回の大会で出番はないだろうと半ば諦めていたためこの采配には驚き喜んだ。そして鈴木に代わって中山の名前がコールされると、スタジアムはこの日最高の大歓声に包まれる。
ロシアチームも選手交代が激しくなり日本は劣性に追いやられる。しかし宮本と楢崎の好プレーで何とか耐え続けた。日本も柳沢、中田が次々とゴールを襲うがなかなか点に結びつかず1-0の膠着状態が続く。服部、福西が投入され、刻一刻と歴史的瞬間へ向かっていった。
やがて鳴り響くホイッスルとともに前後不覚となる。花火が上がった事など後で知ったほどだ。単にどんちゃん騒ぎをするなら他にいくらでもできるのだが、6万6千人が一緒になって喜びを分かち合える瞬間は滅多にあるもんじゃないと思っていた。ひとしきり騒ぎまくって我に返る余裕もないままスタジアムの外に向かうが、すれ違う人と次々にハイタッチを繰り返し、出口のゲートでも、会場の外でも入れなかった人達が次々と「お疲れさん」「おめでとう!」と握手を求めてきた。一緒に喜んだのは6万6千人どころか、実はもっと大勢いたのだなと、あらためて喜びがこみ上げてきた。

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